歯茎が赤く腫れていると、「歯周病かもしれない」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。健康な歯茎は淡いピンク色をしており、弾力があり引き締まった状態です。しかし、何らかの原因で炎症が起こると、歯茎が赤くなり、腫れたり、痛みを伴ったりすることがあります。その代表的な原因が「歯周病」です。
歯周病は、歯垢(プラーク)や歯石が歯茎に炎症を引き起こし、進行すると歯を支える骨が溶けてしまう病気です。しかし、赤い歯茎の原因は歯周病だけではありません。その他の病気やトラブルによっても歯茎の色が変わることがあります。そこで今回は、歯周病による赤い歯茎のメカニズムや、その他の症状、歯科医院での適切なケアについて詳しく解説します。
▼赤い歯茎の原因について
赤い歯茎の最も一般的な原因は「歯周病」です。歯周病は、歯と歯茎の間に溜まった細菌が原因で起こる慢性的な炎症性疾患です。しかし、赤い歯茎の原因は歯周病だけではなく、他にもいくつかの要因が考えられます。ここでは歯周病も含めた原因について説明します。
- 歯周病(歯肉炎・歯周炎)
歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」に分類されます。歯肉炎は歯周病の初期段階で、歯茎の炎症を主な症状とします。歯茎が赤く腫れ、歯磨きの際に出血しやすくなります。しかし、歯肉炎の段階では歯を支える骨への影響はなく、適切なケアを行えば元の健康な状態に戻すことが可能です。
一方、歯肉炎が放置されると「歯周炎」へと進行します。歯周炎では、歯を支える歯槽骨が破壊され、歯がぐらついたり、最悪の場合は抜歯が必要となったりすることもあります。慢性的な歯周炎は、糖尿病や心疾患などの全身疾患とも関連があることが明らかになっており、早期の対応が重要です。
- 口内炎や外傷による炎症
口内炎は、ストレスや免疫低下、ビタミン不足などによって引き起こされることがあり、歯茎にも発症することがあります。特に、アフタ性口内炎は痛みを伴うため、歯磨きが不十分になりやすく、それが歯周病の悪化につながることもあります。
また、歯ブラシの圧が強すぎたり、硬い食べ物を噛んだ際に歯茎が傷ついたりすると、一時的に炎症が生じて赤く腫れることがあります。このような場合は、原因を取り除くことで自然に改善することが多いですが、症状が長引く場合は歯科医院での診察が必要です。
- 全身疾患による影響
糖尿病や白血病などの全身疾患は、免疫機能の低下や血流の異常を引き起こし、それにより歯茎が炎症を起こしやすくなります。特に糖尿病の患者さんでは、歯周病の進行が早く、治りにくい傾向があるため、定期的な歯科検診と口腔ケアが重要になります。
また、貧血や栄養不足により歯茎が赤くなることもあります。鉄分やビタミンCが不足すると、歯茎の血管がもろくなり、炎症が起こりやすくなります。栄養バランスの良い食事を心がけることも、健康な歯茎を保つために大切です。
- ホルモンバランスの変化
妊娠中や思春期、更年期などのホルモンの変化によって、歯茎の炎症が起こることがあります。特に妊娠中の女性は「妊娠性歯肉炎」を発症しやすくなります。これは、女性ホルモンの増加が歯茎の血流を増加させ、炎症を起こしやすくするためです。
また、思春期の子どももホルモンの影響で歯茎が赤く腫れることがあります。適切な口腔ケアと定期的な歯科検診が、歯茎の健康を保つ鍵となります。
▼歯周病で赤い歯茎になるメカニズム
歯周病による赤い歯茎は、主に歯垢(プラーク)に含まれる細菌が引き起こす炎症反応によるものです。歯と歯茎の境目に歯垢が溜まると、細菌が繁殖し、歯茎が炎症を起こします。炎症が進行すると、歯茎の毛細血管が拡張し、赤く腫れるのです。
さらに、炎症が続くと、歯茎の組織が破壊され、歯を支える骨(歯槽骨)まで影響を受けるようになります。これが進行した状態を「歯周炎」といい、最悪の場合、歯が抜け落ちることもあります。
◎歯周病の進行過程
歯周病の進行過程は、以下のように分類されます。
歯肉炎(軽度):歯茎が赤くなり、歯磨きの際に出血しやすくなる。
軽度歯周炎:歯を支える骨が少しずつ溶け始める。
中等度歯周炎:歯茎の腫れが顕著になり、歯のぐらつきを感じることもある。
重度歯周炎:歯槽骨の破壊が進み、歯が抜け落ちる危険性が高まる。
このように、歯周病による赤い歯茎は、進行することで深刻な問題につながるため、早期の対処が重要です。健康なピンク色の歯茎が赤く変化するのをしっかりチェックするために、毎日の口腔ケアの際にはご自身の歯茎の状態を細かく観察することが大切です。
▼歯周病で見られるその他の症状
赤い歯茎以外にも、歯周病が進行するとさまざまな症状が現れます。
歯磨き時の出血:歯茎の炎症により毛細血管が脆弱になり、軽い刺激でも出血しやすくなります。
口臭の悪化:歯周病菌が産生する揮発性硫黄化合物(VSC)によって、強い口臭が発生します。
歯茎の腫れと痛み:炎症が進行すると、歯茎が膨張し、触れると痛みを伴うことがあります。
歯のぐらつきと噛みにくさ:歯を支える骨が溶けることで、歯が動揺し、噛みにくくなることがあります。
歯茎からの膿の排出:炎症が深部に及ぶと、歯茎から膿が出ることがあり、膿がたまると腫れや痛みが悪化します。
歯茎の退縮:炎症が慢性化すると歯茎が後退し、歯が長く見えるようになります。
全身への影響:歯周病の進行に伴い、細菌が血流に入り込むことで動脈硬化や糖尿病の悪化など全身疾患のリスクが高まる可能性があります。
こうした症状が見られる場合は、放置せずに早急に歯科医院で診察を受け、適切な処置を受けることが大切です。
▼歯周炎と認知症の関わり
突然ですが、歯と顎の骨は直接くっついているわけではありません。
歯の下には「歯根膜」というクッションのような器官があります。物を噛むと歯は歯根膜に約30ミクロン(0.03㎜)ぐらい沈み込みます。その中には噛んでいることを感じるセンサーがありそれで咬合力などを制御しています。また嚙みこむことによって歯根膜の下にある血管が圧縮され、ポンプのように血液を脳に送り込まれます。
ひとかみで送りこまれる血液の量は約3.5㎖です。
イメージとしては、お弁当についてくる魚の形の醤油入れとほぼ同量です。噛むたびにお醤油入れくらいの血液が脳に送り込まれます。
また、血液が送り込まれることで脳は刺激を受けますから、噛めば噛むほど脳は活性化されるというわけです。
逆に、歯の本数が少ないほど歯根膜にかかる圧力は減りますから、脳に送り込まれる血量は減ります。その結果、脳への刺激も減るので、脳の機能は低下してしまいます。
そのため一本でも多くの歯を残すことが重要になります。
毎日の歯磨きももちろん重要なのですが、歯科医院での定期検診もとても重要です。
そのために当院では定期的に上下顎全体が映るレントゲンを撮影させていただき、歯周病の進行や虫歯の進行などをチェックさせていただいています。
▼歯周炎と誤嚥性肺炎の関わり
誤嚥性肺炎は2021年日本人の死因の6位になっています。
とりわけ高齢者のなかでは大きな割合を占めています。
誤嚥性肺炎には、胃の内容物を嘔吐に伴い肺に誤って嚥下して生じる化学的肺炎と、口腔内細菌を不顕性に誤嚥して生じる細菌性肺炎に分けられます。
今回は口腔内状態と大きくかかわりある後者について言及します。
細菌性肺炎の背景には、夜間睡眠中の嚥下反射、咳反射の低下と、口腔内細菌の増加があげられます。
日中の嚥下反射、咳反射はかなりの高齢者に達するまで保たれることが分かっています。しかしながら夜間睡眠中は、健常な高齢者でもこれらの反射能力が低下し、脳梗塞やパーキンソン病を有する患者ではさらに低下するといわれています。
そのため誤嚥する口腔内の細菌を量的に減らすことで肺炎の発症リスクを減らすことができると考えられています。
歯周炎の適切なケアをすることによってこれらの疾患に対して予防処置を行うことが出来るので、この後はケアの方法について言及したいと思います。
▼歯周病による赤い歯茎をケアする方法
歯周病で赤い歯茎になっている場合は、次の方法でケアしましょう。ここでは歯科医院でのケアと自宅でのケアの2つに分けて解説します。
- 歯科医院でのケア
歯周病による赤い歯茎を改善するには、歯科医院での適切なケアが必要です。具体的には以下のような治療を行います。
スケーリング(歯石除去):歯石を取り除くことで、炎症の原因を取り除きます。
ルートプレーニング:歯の根元の歯石や細菌を徹底的に除去し、歯周ポケットの改善を図ります。
抗菌療法:必要に応じて抗菌薬を使用し、細菌の繁殖を抑えます。
噛み合わせの調整:噛み合わせのバランスが悪いと歯周病が進行しやすくなるため、適切に調整します。
- 自宅でのケア
歯科医院での治療と並行して、自宅でのケアも重要です。
適切な歯磨き:歯ブラシは柔らかめを選び、歯と歯茎の境目を意識して磨きましょう。
デンタルフロスや歯間ブラシの使用:歯と歯の間の汚れをしっかり取り除くことが大切です。
生活習慣の見直し:喫煙や糖分の過剰摂取を控え、バランスの良い食事を心がけましょう。
▼まとめ
今回は、赤い歯茎の原因と歯周病で見られる症状、歯医者のケアのポイントについて解説しました。赤い歯茎は、歯周病のサインである可能性が高いため、放置せずに適切なケアを行うことが大切です。歯周病は初期段階で適切な治療を行えば改善が期待できますが、進行すると歯を失うリスクが高まります。さらに全身疾患への関与も認められる部分があるため、体の健康のためにも早めに歯科医院を受診し、プロのケアを受けるとともに、日々のセルフケアをしっかり行いましょう。健康な歯茎を維持するためには、定期的な歯科検診と正しい口腔ケアが欠かせません。